キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

宇宙で光れ、でんぱスターズ!新体制のでんぱ組.inc、決意のシングルを聴いた!

えいたその物真似が得意です。

 

 

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4月4日、でんぱ組.incの16枚目のシングル『おやすみポラリスさよならパラレルワールド/ギラメタスでんぱスターズ』が発売された。およそ1年4ヶ月ぶりのCDリリースとなるが、この間にでんぱ組.incには、アイドル活動の根幹を揺るがしかねない事件があった。


それは、人気メンバーであった最上もがの脱退。そして、それに伴ったライブ活動の停滞である。


でんぱ組.incの楽曲は、基本的に6人全員が揃わなければ歌えないように構成されている。ひとりひとりのソロパートが多いのはもちろんのこと、『おつかれサマー!』では個々の名前をもじった歌唱ポイントがいくつかある。特にでんぱ組.incの人気を押し上げた代表曲『W.W.D』ではイジメ、挫折、不登校ネトゲ廃人時代など、壮絶な人生を6人が赤裸々に吐露する場面すらある。


要するに最上もがの脱退は、楽曲構成の根幹を揺るがしかねないものであり、もっと言えばグループの存続にも関わる事態であった。


結果的にでんぱ組.incは、この日を境に数ヵ月もの間、沈黙を貫いた。「ライブが生き甲斐」であると語っていたリーダーの古川未鈴SNS上で一切グループの話題を出さなかったし、他のメンバーもソロでの活動に専念していた。奇しくも3枚組のベストアルバムが発売された後の出来事であったことから、ファンの間では「もう解散なのでは?」との噂も飛び交っていた。


沈黙が破られたのは、去年の年末。1年ぶりのライブを開催したでんぱ組.incは中盤、虹のコンキスタドール根本凪、ベボガ!(虹のコンキスタドール黄組)の鹿目凛の2名を新メンバーとして発表し、今後は7名で活動していくことを明言した。


ライブ終了後、ファンの意見は真っ二つに割れた。「戻ってきてくれてありがとう!」という称賛の声と、「え?それってどうなの?」という否定的な声とが入り乱れ、SNS上で大論争を巻き起こした。


では僕個人はどう思ったのかを語りたいと思う。僕ははっきり言って、否定的な意見であった。というのも、でんぱ組.incの成り立ち自体が、他のアイドルグループと大きく違うからだ。言い方は悪いが、でんぱ組.incは『暗いオタク女子の集まったグループ』である。


引きこもり、いじめ、疎外感……。多くの困難を経てアイドルを志すも、当初は地下アイドルとしてほとんど芽が出なかったそうだ。辛いことの方が多かったに違いない。それでも笑顔で前向きに、なにくそと這い上がった結果が今なのだ。武道館講演決定に涙し、誕生日サプライズに涙する……。悲しみを押し殺し、満面の笑顔で迎える。そんなでんぱ組.incだからこそ、ファンは応援しているはずだ。


では新メンバー2人はどうか。今まで辛いこともあっただろう。悲しい経験も積んできただろう。だが、曲におこされていない分、メディアで語っていない分、僕たちはその事実を知らない。だからどうしても、『フワッと入った2人』というイメージが拭い去れないのだと思う。他グループと兼任という部分も、そのイメージに拍車をかけているのではないか。


……以上のことから、僕は新メンバー加入に否定的だった。「みんなが選んだ道なら応援する。でも……」という、複雑でぐしゃぐしゃになった気持ち。

 

そんな折、今回の新曲が発売されたわけだ。僕は歌詞カードを読みながら、じっくりと聴いた。続いて、2回3回と繰り返し聴いてみる。すると次第に、僕の気持ちは少しずつ変わっていった。


「新生でんぱ、いいじゃん!」


さっきと言ってること全然違う。あれー?

 

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……ということで前書きが長くなったが、レビューに移りたいと思う。今作には大きく3つの楽曲が収録されている。順番に見ていこう。

 

【おやすみポラリスさよならパラレルワールド


今作のリードトラックであり、世界的に有名なピアノユニットH ZETTRIO(エイチゼットリオ)が手掛けている。作詞は漫画『ソラニン』でもお馴染み、浅野にいお氏。


全編バカテクピアノが炸裂するミドルテンポな楽曲で、かつてのでんぱ組.incにはない、かなり特殊な曲となっている。大きく舵を変えたこの曲は新生でんぱ組.incにふさわしく、攻めの1曲と言える。


H ZETTRIO節全開の楽曲であり、インストゥルメンタル的な部分が強い。要は、ボーカルなしでも曲が成立するような作りになっている。でんぱ組.incの必修科目と言うべきギターの音色は全く入っておらず、ピアノ、ベース、ドラムの3つ。最小編成で鳴っている。ピアノの主張が強いがベースもなかなか曲者で、エレキベースではなくアコースティックベースで弾かれているため、かなり味のある音なのも特徴。ドラムもボーカルを壊さない程度に、あえて柔らかな音に変えている。メンバーの歌声とピアノの力が重要な楽曲だ。この演奏、でんでんバンドは大変だと思う。


ボーカルに関しては、前述した点において欠かせないものなわけだが、メンバー7人全員に平等に役割が与えられている。『W.W.D』などのように、誰かひとりが群を抜いて注目を浴びることもない。「ああ、新メンバーがうまく溶け込んでるなあ」と感じた。


既存メンバーの歌声が頭に入っている分、鹿目と根本の歌声が聴こえると「おっ」となるが、まるで元々メンバーだったかのような自然さで受け入れることができる。というか普通に歌がうまい。


いわゆる「にぎやか系」の曲ではないため、ひとりがトチったり下手だったりすると途端に崩壊する曲でもあるのだが、その心配もなさそうだ。


浅野にいお氏の作詞も、『あした地球がこなごなになっても』でも顕著なように、宇宙と現代の対比がうまい。


〈なんて広大な宇宙の輪 無限だな 無限だな〉


〈君は今日なにしてるかな? 平坦な日常〉


今回のシングル、全曲にわたってテーマは『宇宙』なわけだが、独自の『ほんわかした宇宙論』を描き出す浅野氏、さすがである。

 

聴けば聴くほど味が出る、絶妙なスルメ曲である。

 


でんぱ組.inc「おやすみポラリスさよならパラレルワールド」MV

 

【ギラメタスでんぱスターズ】


こちらは逆に、BPM速めのポップチューンに仕上がっている。歴代の楽曲で例えると『破!to the Future』や『でんぱれーどJAPAN』のような、ライブ映えする代表曲になりそうだ。


この楽曲の特筆すべき点は、強いメッセージ性にある。


〈いっぱい伝えてえなぁ 口がついてこねえなぁ〉


〈つまりは 新しいって最高だ〉


〈お前ら道に迷わせない 行く先照らしてやんよ〉


メンバー脱退も、新メンバー加入も。酸いも甘いも全部ひっくるめて、前だけしか見ていない。「心配するな、私たちについてこい!」という明確な意志が感じられる。僕はこの曲を聴いて、「でんぱはもう大丈夫だ」と思えた。


〈こちら根拠のない自信で満ち満ちてんだ〉


〈光速ですんませんね もう次にいるんだわ〉


〈騙された気で 翔んでみなっしゃいな〉


このモードが続くなら、心配する必要なんかない。


次に、音について。どしゃめしゃに鳴らされるドラム、キラキラシンセ。もはや定番とも言える流れだが、よく聴くとギターが不在、転調の多用などの進化も見られる。PCでプログラミングされたパーカッション音もふんだんに使われており、一種のトランス状態に陥ること請け合い。というかシンセの人、腕4本ない?


中盤に入ると管楽器も姿を表し始め、全貌が判明する。単純にものすごい情報量なわけで、それにボーカル7人が加わるため、もはや第2の『破!to the Future』と言っても過言ではない。


ライブでは酸欠必至の楽曲である。頑張れでんぱー!

 


【世界初!?】でんぱ組.inc「ギラメタスでんぱスターズ」MV Full


【Ψ発見伝!】


アニメ『斉木楠雄のΨ難』とのタッグもこれで3回目になるのだが、僕は一番アニソンらしいアニソンだなと思った。


というのも、『Ψです I LIKE YOU』や『最Ψ最好調!』といった楽曲は、管楽器でリードしたりラップ要素を取り入れたりといった、一風変わった特異さが売りだった。もちろん名曲であることは代わりないのだが、アニソンというくくりで見ると「狙いすぎでは?」と感じる部分もあった。


そこでこの曲の登場である。アニソンの王道を行く作りで、安心して聴ける1曲となった(逆に「普通すぎる」いう意見もあるとは思うが)。変な話、僕はでんぱ組.incの初期アルバムのイメージがした。良い意味で。


アニメを意識してか、斉木楠雄のΨ難っぽい『テレパシー』という単語が多く出てくることを除けば、いつもと変わらない、安定したでんぱ組.incである。最高の良作だ。


で、この楽曲を聴いてふと思ったのだが、本来、アーティストがシングルを発売する際は、アニメのタイアップがついた楽曲をいわゆる『A面』とするのが通例である。しかし今回のシングルタイトルは『おやすみポラリスさよならパラレルワールド/ギラメタスでんぱスターズ』である。ダブルA面にも関わらず、最も大きなタイアップがついたこの曲をタイトルから外すというのは、普通考えられない。


ここからは僕の想像だが、『今のでんぱ組.incはこれを推したいんです!』という強い気持ちがあったのではと思う。勝負曲『おやポラ』と強いメッセージ性を持った『ギラメタ』。この2曲と比べると、確かに大きなタイアップはあるとはいえ、今のでんぱのモードとは異なっている気もする。


いかんせん『最Ψ最好調』がライブ定番曲ということもあり、今回のツアーが終われば『Ψ発見伝!』とセットリストから除外されそうな気もする。名曲なのは間違いないのだが、漠然とそんな気がするのだ。

 

以上でCDレビューは終了である。いつも以上に乱文駄文になってしまった気がする。申し訳ない。


間違いなく『おやポラ』、『ギラメタ』は最新でんぱ組.incの名刺がわりの2曲になるだろうし、特に『ギラメタ』は夏フェスでは確実に歌い続けるであろう曲である。


だが正直、今回のシングルでは新生でんぱの全貌は分からない。CDの曲が良くても、それらが7人の間で消化しきれていなければ、悲しい結果となるからだ。本当にこの決断が正しかったのかは、やはり生のライブを見て体感しなければならない。


……ということで、来る5月2日。僕は新生でんぱ組.incのライブに参戦することを決めた。鹿目、根本の2名のメンバーは、どのような表情を見せてくれるのだろう。またライブレポートも書くつもりだが、そのときには『やっぱでんぱ組.inc最高だわ!』という気持ちに変わっていればいいなあと期待を込めて、このブログを終わりにしたいと思う。


それでは夜も遅いので。おやすみポラリス

 

 

 でんぱ組.inc公式サイトはこちら

でんぱ組.inc 公式サイト