キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

スコッチに火を点けて

未来の子供「えー!お前ユーチューバーになったの!?すげー!勝ち組じゃん!なんてったって『人気の職業ランキング』1位だもんなあ!」

 

 

 

古くから日本に伝わる遊びとは何だろう。僕が真っ先に思い浮かべたのは、ジャンケンだった。

ジャンケンは不思議だ。グー、チョキ、パー。片手で至極簡単に表すこの3手によって、瞬時に勝敗が決まる。

現代では勝敗を分かつのみならず、グーとパーのみを用いてグループを作るなど、まるでチョキの尊厳を失墜させるかのような使われ方もする。悲しい世界である。

話は少し脱線するが、僕はジャンケンでは、基本的にグーしか出さないと決めている。『それ』が当たり前になったのは、確か高校時代からだったと思う。

グー、チョキ、パー。この簡単な3択を、全力で挑む者。何も考えず無心で決断する者……。多くの思考が交錯する中、常に『グー』を出したまま一向に動かず、勝利を手にした瞬間は、一生忘れないだろう。

「裏をかいてやる」、「絶対負けられねえ」……。考えることは違えど、皆に共通しているのは『勝利』への意思。対して、僕は何物にも染まらない「そげなこと俺知らんべ」という、社会に対するアンチテーゼのような反抗。

僕がグーを出し続ける理由は、そんな快感を忘れられないでいるからだろう。

(この辺で「あれ?俺、明日仕事なのに何書いてんの?」という気持ちになってくる)


閑話休題

ジャンケンについて、ひとつだけ読者に問いたい。

「掛け声ってどんな感じでしたか?」と。

特に、

「みんながあいこだったとき、何て言いますか?」と。

僕が住んでいるのは島根県。47番目に有名な県であり、『美肌の県第一位!』とケンミンショーで取り上げられても「いや、ジジババしかおらんで」とぶった切る、そんな県。

僕が暮らしていた地域では、あいこのときはこう言っていた。

「あーらっき」。

なにこれ。

全く意味がわからない。おばたのお兄さんの「まーきのっ」と同じ匂いを感じる。

とにかく。理解不能な上記の文言を、小学校から現在に至るまで、長いこと使ってきたわけである。

この数年間、いろいろな県に行ってきた。何度もジャンケンをした。ジャンケンで人を殺めたことも、幾度となくあった(ないです)。そんな今だからこそ、改めて思う。

なにこれ。

「あーらっき」について、最後まで理解すること叶わなかった。どれだけ理解不能かと言うと、りゅうちぇること比嘉が「ちぇるちぇるランドに住んでる!」と言い出したのと同じくらいである。

一度考え出すと止まらないもので、一時期を境に、「あーらっき」が気になって仕方がなくなってしまった。

なので、僕は真相を確かめるべく、仕事終わりで疲れた体に鞭打って、毎日毎日ジャンケンの文献を読み漁った。

雨の日も、風の日も。ジャンケンへの飽くなき探求心が、僕の心を突き動かしていたのかもしれない。

そして10月も半ばに差し掛かったある日、ついに信頼のおける文献を見つけたのである。

そこには、涙なしでは語れない、壮絶なひとりの男の物語があった……。


結論から先に書くと、どうも「あーらっき」は「I LIKE IT」が変化したものらしい。

遥か昔、現在の島根県で、ジャンケンが得意な若者がいたそうだ。

男の名は、タイヘイといった。

タイヘイは、連戦連勝。皆で何とか負かそうとするが、結果及ばず。無敗記録は100に届こうかというところまできていた。

村の人々は、彼を誇りに思い、まるで自分のことのように周囲の村に自慢した。

彼の周りには、笑顔でいっぱいの人々で溢れた。

いつの間にか、彼の存在は、村の人々の生きる希望になっていたのだ。


だが、彼の生活を一変させる出来事は、突然起きた。

タイヘイの母タエコが、当時流行していた病によって、息を引き取ったのだ。

タイヘイは、みるみるうちに元気をなくしていった。食事もあまり採らず、ほとんど外出することもなくなった。

こうなると人間は薄情なもので、『いつもの彼』でないと察した瞬間、次第に人々は興味をなくし、事件から2ヶ月が経つ頃には、彼の周りには誰もいなくなってしまった。

悲しむ気力も失った彼の元に光が差すのは、それからさらに半年が経過した頃だった。

ある日、タイヘイの自宅をドンドンと叩く音がした。

「タイヘイ!タイヘイサン!」

ゆっくりとタイヘイが家の扉を開けると、そこにはひとりの女性が立っていた。

髪は金色、瞳は澄んだブルー。「綺麗な人だ」と、タイヘイは思ったそうだ。

「あなたがタイヘイさんね!私、ずっとあなたに会いたかった!」

話を聞くと、彼女はタイヘイのうわさを耳にして、はるばる外国からやって来たらしい。

日本とは形が違えど、外国でもジャンケン(Jun-Kents)は人気を博していた。タイヘイの名前も浸透しているのだそうだ。

お世辞にも日本語は上手とは言えなかったが。思いを伝えるには十分な熱量を感じた。

だが、彼女から目をそらすように、タイヘイは言った。

「ごめん、俺、ジャンケンはもう……」

疲弊したタイヘイには、当時のようなジャンケンの情熱は残っていなかった。

女性は一瞬悲しそうな顔を見せたが、すぐに笑った。

「やりたくないなら、やらなくていいよ?」

予想外の返事に、タイヘイは面食らった。なにしろ、はるばる海を越えてやって来たのだ。怒るか、失望すしてもおかしくない。

呆気にとられていると、彼女は言った。

「タイヘイさんのこと、もっと知りたい」と。

それからの時間は、枯れた砂漠に雨を降らせるかの如く、タイヘイの心を満たしていった。

タイヘイは、半年間誰にも語れなかった辛さや悲しみを、彼女に聞かせた。

彼女は、悲しそうな顔をしながらも、終始笑っていた。時折タイヘイの意見に同調しながら。

タイヘイは、ジャンケンをしていたときのことを、自慢気に話した。

彼女は、満面の笑みで笑っていた。顔を見るだけで、『本心から』笑っていることがわかった。タイヘイはその笑顔を見ると、晴れやかな気持ちになった。いつの間にか夜は更けていた。

その後結局、彼女は帰路についた。泊まる場所があるとのことで、引き留めるのも気が引けた。

「まあ、明日も会えるし」

タイヘイいわく、この日は人生で最も楽しい一日だったそうだ。明日のことを考えると、ほとんど寝付けなかったとも語っている。

だが。

彼女が元気な姿を見るのは、これが最後だった。

 

 

 

 

 

タ……。

 

 

 

 

 


タ……ヘ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

???「ねえ!タイヘイ!」

タイヘイ「うわあビックリした!テイラーじゃん、どうしたの?」

テイラー「ビックリした、じゃないわよ。いつまでこの話を続けるつもり?」

タイヘイ「うーん……キタガワくんの気力が尽きるまで……かな……?」

テイラー「だから、キタガワくんの気力はとっくに尽きてるの!彼がこの話を書き始めたの、1ヶ月も前じゃない」

タイヘイ「うん」

テイラー「1ヶ月前の深夜に突然思い立って書き始めたところまでは良かったけど、それがピークだったわね」

タイヘイ「そのときはどこまで書いてたんだっけ」

テイラー「あなたが家に閉じこもったところまでね。そのあとに私を登場させて、死なせて。感動の流れに持っていきたかったらしいけど」

タイヘイ「うん。なんで書かなかったんだろう」

テイラー「彼の性格、知ってるでしょ?飽きっぽいのよ」

タイヘイ「ああ……」

テイラー「私が登場してからの流れ、かなり雑だったでしょ。何が『枯れた砂漠に雨を降らせるが如く』よ。彼がこういう表現を使い始めたら、本格的に書くことがなくなった証拠よ。覚えておいて」

タイヘイ「なるほど……要は、途中で飽きたからこんな中途半端な終わりかたをする羽目になったと」

テイラー「読者の皆さん、ごめんなさいね」

タイヘイ「でも、肝心なことが明かされてないじゃないか。ほら、なんで『あーらっき』になったかのくだり」

テイラー「知らないわ」

タイヘイ「そっか」

テイラー「だってこの話、フィクションだもの」

タイヘイ「どこから?」

テイラー「彼が図書館で文献を読んだあたりからよ」

タイヘイ「めちゃくちゃ序盤じゃないか!」

テイラー「そりゃそうよ。そんなことする暇があったら、ゲームをするかヒカキンの動画を見てるわ。今ちょうどFF12の攻略に忙しいみたいだし」

タイヘイ「そっか……じゃあもうこの話も終わりだ」

テイラー「そういうこと。だからそろそろ、私たちも消えなきゃね」

タイヘイ「そうだね。あ、でも最後にひとつだけ言いたいことがあるんだ」

テイラー「この際よ、何でも言ってちょうだい?」

タイヘイ「名前、テイラーなんだ。知らなかった」

テイラー「うん、彼が今つけた名前よ。適当に」

タイヘイ「あとさ、めっちゃ流暢に日本語話すじゃん」

テイラー「設定だったから仕方ないわね」

タイヘイ「一番好きな日本語は?」

テイラー豊田真由子

タイヘイ「ちーがーうーだーろー!漫才やめさせてもらうわ!」

テイラー・タイヘイ「どうも、ありがとうございましたー」